技術の限界
ウォッチメーカーの仕事の中で
「限界を知る」
ということがあります。
機械の限界、ケースの限界、部品の限界、精度の限界、、、
これが難しい。一番難しい。
多くの優れたウォッチメーカーの方とお話をさせていただき、技術を教えていただくと、すごく感じます。優れた技術者ほど限界を知っている。これが技術の差となってゆくのです。
たとえばこんな感じ。
80年前の時計を預かったとします。修理依頼です。
優れた技術者ならば綺麗に修理し、販売当時の精度近くまで直してくれるのではないでしょうか。
でもすぐれたウォッチメーカーの仕事ではありません。
これに何の問題があるのか?と思いますよね。
でもこうならどうですか?
80年前の時計を80歳の人間だと考えて下さい。
もちろん機械すべてを新品に交換するのであれば、問題はないでしょう。
ただし、精度を出すために一部の部品を交換したり、調整に多くの時間を費やし手を加えたとしましょう。その場合、人間に例えるとこうです。
80歳の人が長時間の手術に耐えられますか?(多くの手を加える)
右足は20歳の状態、左足は80歳のまま。(部品交換)
はたしてこの機会が、修理前より寿命が延びたのでしょうか?
80歳の老人の寿命が延びたのでしょうか?
時計にとって、精度を出すことがいい修理とは言えないのです。
その時計を見て限界を見極める。そしてその時計の限界に合わせた最善の修理を行う。
そしてその時計の状態を正確に持ち主に伝える。
これが優れたウォッチメーカーの仕事です。
決して自分の技術に満足してはいけません。
技術に限界はないのです。